6.認知症対策
各透析施設でのスケール検査やグループ病院での精密検査により、認知症の早期発見・鑑別診断が可能となり、適切な治療に繋げられます。
透析患者様の認知症発症率
透析患者の平均年齢は69.67歳(2021年末時点)で、年々高齢化が進んでおり、認知症を発症している患者様も少なくありません。日本透析学会による調査では、65歳以上の6人に1人の透析患者様が認知症を発症していると報告されています。
認知症の種類
認知症を引き起こす病気のうち、もっとも多いのは脳の神経細胞がゆっくりと死んでいく「変性疾患」と呼ばれる病気です。アルツハイマー病、レビー型小体病などがこの「変性疾患」にあたります。続いて多いのが、脳梗塞、脳出血など脳の血管障害のために、神経の細胞に栄養や酸素が行き渡らなくなり、その結果その部分の神経細胞が死んだり、神経のネットワークが壊れてしまう脳血管性認知症です。その他にも正常圧水頭症や、慢性硬膜下血腫など認知症をきたす疾患は多くあります。
偕行会グループの調査では、透析患者様の特徴として、脳血管性認知症が多い可能性が示唆されています。
早期診断の重要性
治る認知症を見つける
認知症を引き起こす病気のなかでも治療可能なものもあります。
初期であれば、完治する可能性もあります。(硬膜下血腫や正常圧水頭症など)早めに受診をして原因となっている病気を突き止められれば、適切な治療を行うことができます。
進行を止められる認知症を見つける
脳血管性認知症は、薬物療法など適切な治療を行うことで、進行を止められる可能性があります。
脳の細胞は一度死んでしまうと戻ることはありませんが、原因となっている症状に対し、適切な治療をおこなえば、認知症の進行は止めることができます。
治らない認知症の場合は、早期治療で進行を遅らせる
アルツハイマー型認知症は早い早い段階からの服薬等の治療を受けることで、進行をゆるやかにすることが可能といわれています(下図参照)。
服薬による効果は個人差がありますが、以下のグラフのような効果が得られる場合もあります。早期発見・早期治療により、良い時間を長くすることができます。
偕行会グループにおける認知症の早期発見の取り組み
偕行会グループでは、転入時や誕生月での定期的なスケール検査を行っています。また、週3回顔を合わせる職員だからこそ感じ取れる異変があった場合にも、臨時的なスケール検査を行い、早期に適切な治療へ繋げられる仕組みを構築しています。
各透析施設
簡易診断/長谷川式認知症スケール検査(HDS-R)
長谷川式認知症スケール検査とは、認知症をスクリーニングすることを目的に用いられる簡易的な認知機能テストです。記憶を中心とした大まかな認知機能障害の有無を調べます。30点満点で構成され、20点以下だった場合、認知症の可能性が高いとされています。
偕行会グループでは21点をカットオフ値(境界値)と定めています。
全体 | 男 | 女 | P値 | |
---|---|---|---|---|
総数 | 710 | 442 | 268 | |
年齢 | 77.3 ±7.8 |
76.9 ±7.4 |
77.9 ±7.4 |
0.07 |
透析歴 | 6.95 ±6.95 |
7.06 ±7.17 |
6.76 ±6.58 |
NS |
HDS-R | 23.1 ±6.0 |
23.1 ±5.7 |
22.9 ±6.5 |
NS |
認知症の疑いがある場合には
名古屋共立病院
精密検査/VSRAD(ブイエスラド)
VSRAD(ブイエスラド)とはMRI画像のコンピュータ解析を行い、脳の萎縮度を調べることで認知症の可能性をテストする検査です。
アルツハイマー型認知症に特徴的な脳の萎縮の程度を数値で表し、早期発見につながります。
※VSRADはあくまで画像検査を支援するプログラムであり、解析結果のみで診断を下すことはできません。
偕行会城西病院
鑑別診断/脳SPECT検査やMRI検査
認知症の有無、原因疾患、重症度などを見極めるための診察を行います。脳の形を見る検査(MRI)や脳の働きを見る検査(SPECT)を行います。SPECT検査では、脳の各部における血流状態や脳の働きを診ることができ、早期の脳血流障害の検出や脳の機能評価などに有効です。