#03 透析患者様の状態をいち早く把握し次の治療へ ― チーム医療の中の診療放射線技師の役割
櫻井 寛
透析治療は、合併症対策やシャントの管理、食事・運動療法など、ケアすべき領域は多岐にわたり、医師や各医療スタッフが専門性を活かした高度な“チーム医療”が求められます。その一員として、画像検査でいち早く患者様の状態を把握する役割を担うのが「診療放射線技師」。偕行会の技師たちを統括する櫻井寛の役割とは?
透析施設に診療放射線技師が専任で就く、全国でも稀な組織体制
櫻井「一般的には、透析で診療放射線技師が活躍する場はあまり多くないんです。でも偕行会では、透析専門の診療放射線技師チームをつくり業務にあたっています。
偕行会 透析医療事業部の統括部長を務める櫻井寛は、透析治療における診療放射線技師のポジションをこのように語ります。
診療放射線技師とは、医療機関で放射線を用いた検査・治療を業務とする国家資格です。レントゲン撮影、超音波(エコー)検査、CT、MRI、血管撮影……など、取り扱う業務は多岐にわたります。高いレベルでの専門知識・技術を身につけた専門職であり、チーム医療の一員として欠かせない存在です。
一般的に透析治療における診療放射線技師の出番は、月に1~2回行う胸部レントゲン撮影です。透析治療を受けていると体に水が溜まりやすく、心臓や肺に水が溜まっていないか、肺野に異常はないかどうかなど、定期的に観察する必要があるためです。
その他に偕行会グループでは、透析患者の命綱とも呼ばれる“シャント”の検査・治療に深く関わっています。シャントとは血液透析を行う際、十分な血液量を得るために、動脈と静脈を人工的につなげた血管を言います。このシャントと呼ばれる部分が狭くなったり詰まったりしていないか、超音波(エコー)検査でチェックし、トラブルを防ぐのも偕行会グループでは診療放射線技師の仕事です。
レントゲンやエコーによる検査は、透析治療には欠かせないもの。しかし頻度としては、それほど高くありません。総合病院に併設された透析センターのような業態であれば、他の診療科と兼任で診療放射線技師が常駐していることも多いのですが、外来専門の透析クリニックに専任の技師がいることは、ほぼないといっていいでしょう。
偕行会グループでは、全国16カ所の外来透析クリニックを診療放射線技師が巡回してレントゲン撮影や超音波(エコー)検査などを行う、全国でもほぼ例を見ないシステムをとっています。
しかし、櫻井が30年前に偕行会の基幹病院である名古屋共立病院に入職したころは、まだこのような体制ではありませんでした。
少数精鋭で、診療放射線技師として多彩な技術を身につけた15年間
櫻井が名古屋共立病院に入職したのは1986年のことです。当時は、病院の規模は今よりもずっと小さく、診療放射線技師は櫻井を含めて3名。夜勤に入っても、1枚もレントゲンを撮らずに終わることも日常茶飯事の、のんびりとした職場でした。
そんななか、櫻井は、入職1週間目にして大失敗をしてしまいます。
ちょうど日勤と夜勤の技師が交代する時間帯、夜勤の技師が来るまでのあいだ、櫻井がひとり残ることになってしまったのです。ほんの1時間ほどのことだったのですが、ふだんあまり入らない検査がその時に限って入ってしまいました。
見よう見まねで準備をして撮影ボタンを押したのですが、出てきたのは、何も写っていない真っ白の画像でした。
櫻井「自分の頭の中も、真っ白になりましたね(笑)。本当にすみませんでした、と平謝りでした。この失敗をきっかけに、あんまりのんびりやっていちゃいかんな、と思い、積極的に仕事を覚えるようになりました」
実際に“のんびりしていた”のは1~2年ほどのことで、櫻井の先輩ふたりのうちひとりは、櫻井が入職して1年後に離職してしまいました。そして病院の状況としても、1990年の増改築を契機に患者様が増え、病院の規模拡大も続いて、診療放射線技師の仕事もどんどん広がっていきました。
1990年代半ばになると、偕行会グループではチーム医療の体制構築を一層進めるようになりました。櫻井はそれまで専門性を高めてきた循環器チームに所属。そしてコメディカルの循環器チームではトップの立場に。
その後約10年間にわたって循環器分野に強い診療放射線技師としてキャリアを積んできた櫻井でしたが、こんどは透析医療事業部へと異動することになりました。2002年のことです。
「ベッドサイド検査」スタイルで患者様や医療スタッフとの情報共有が密に
偕行会グループで透析専門の診療放射線技師チームができたのは、1999年の偕行会セントラルクリニック開設、そしてその後に順次、外来透析クリニックが開設されたのが契機でした。
それまでは名古屋共立病院で検査を請け負っていたのですが、透析専任の技師が各透析クリニックを巡回して検査を行うことにしたのです。
そのチームの長として、2002年に櫻井が赴任。おりしも、シャント治療を得意とする腎臓内科医・佐藤隆(現・名港共立クリニック院長)が赴任してきたことで、偕行会グループでもシャント治療の本格化がはじまりました。透析医療の現場で、診療放射線技師としての仕事の領域が広がり、櫻井が一層やりがいを感じられるようになったのもこのころです。
櫻井「患者様が、シャントの状態がよくなって喜んで帰っていく、その現場にいられるのが嬉しかった。やはり、医療従事者にとって、患者様の喜んだ顔は大きなモチベーションですから」
そして、現在の巡回スタイルは、技師と患者様、そして他の医療スタッフをつなぐ貴重な機会を生み出してくれると、櫻井は感じています。
シャントの治療(PTA・手術)は、撮影機器のある名古屋共立病院などに患者様にお越しいただき、撮影を行いますが、シャントの検査のための超音波検査は、技師が患者様のベッドサイドまで赴いて行います。
その際に技師は、患者様が不安に思っていることなどを解消できるよう、できる限りわかりやすくお話をさせていただくことが偕行会のスタイルです。
そんな中、櫻井が心にしみた患者様の言葉は「まあ、あんたがそういうなら、しかたないね(治療を受けますよ)」というもの。
櫻井「自分が行った検査の結果、そして説明を信頼してくださっていることのあらわれだと感じて、とても嬉しかったですね」
また、患者様のところで検査をしてお話をすることで、看護師など他の医療スタッフと顔を合わせてコミュニケーションがとれるところも、チーム医療に良い影響をもたらしていると櫻井は考えています。
櫻井「シャントの状態がどうなっていて、どう扱うのがいいのか……。医療スタッフにも患者様といっしょに説明を聞いてもらうことで情報共有ができます。とある看護師は『では、穿刺(針を刺す)時に気をつけるようにしますね』と看護の質向上にもつながります。」
「あえてそれを意識してはじめたスタイルではありませんでしたが、学会などで聞いた他の施設での状況と比較しても、このやり方がチーム医療の質の向上につながっています」
「患者様の画像を一番にみるのは自分」ープロとしての自負をもって仕事に取り組む
現在では、8名の診療放射線技師を束ねる立場にいる櫻井。後輩たちについては、透析医療のスペシャリストとしてキャリアを積んできていることを喜ばしく思うとともに、もっとさまざまな技術を身につけさせてやりたいと考えています。
櫻井自身も若いころから、新しい技術の習得や、研究、学会発表を重ねてきました。2016年には、韓国の腎臓病学会でベストポスター賞を受賞。
透析では、穿刺(針を刺す)が難しいシャントには、超音波で画像を見ながら穿刺をすることがあります。そのトレーニングのための血管モデルをつくったのです。現場のスタッフの苦労を軽減するために、自分が持っている知識や技術を活用した開発でした。
櫻井「自分の手で仕事の領域を広げていくことが、自分の成長と医療の進歩にとっては必要だと思うんです。幸いうちのチームは、名古屋共立病院だけでなく、いくつかの病院とも協力関係にあるので、透析医療だけでなくさまざまな経験を積むチャンスはありますね」
そして、櫻井が診療放射線技師の仕事をしていくうえで、メンバーに何度となく伝えているのが「患者様の検査画像を、いちばん最初に見るのは自分たち技師であること。その意味を考えて行動する」ということです。
胸部レントゲンの検査画像には、重要な情報がたくさん込められています。肺炎になっている、心臓に水がパンパンに入っているなど、すぐに治療が必要なものも、ときにはある。それを知っていながら、何も考えず現場に戻してしまったら、主治医がすぐ写真を見るとも限らず、その間、肺炎を放っておくことにもなりかねません。
櫻井「私たちは放射線検査画像を毎日見ているので、画像を見る(診断)力もあります。ちょっと違和感があるぞと思ったときに、主治医に連絡すること、さらにこういう検査をしてみてはどうかと提案ができること、そこまでしてこそプロです。ただ検査するのではないという自負をもって取り組んでほしいと考えています」
一般的には、診療放射線技師は、患者様の治療に直接的な関わりを感じにくい職種かもしれません。しかし、偕行会グループでは、絶え間ないスキルアップの意志と、業務の枠にとらわれない能動的な関わりをもち、チーム医療の中で、患者様のQOL(生活の質)を高める一員であるという自負をもって、業務に取り組んでいます。
取材日 2017.3 Text by PR Table