#06 ひとを選ぶのではない。選ばれる自分・会社であれー偕行会流、ひととの向き合い方

加藤 かおる

国内外42の医療・福祉施設を運営する偕行会グループ。患者様に最高の医療サービスを提供するためには、人材育成を担う人事部は非常に重要な基盤となります。偕行会法人本部人事部長・加藤かおるのこれまでのキャリアと培われてきた考えを通じて、これからの偕行会に必要な“ひと”の力を考えていきます。

学生時代に人材会社を設立。商機を見いだした深夜の“ある光景”

加藤かおるのキャリアはひとことで言うと、“人事ひとすじ”。彼の人事キャリアがはじまったのは、社会人1年目……ではなく、大学生の頃でした。

大阪の大学に入学し、ラグビーをケガで引退したあと、派遣会社を立ち上げ。これは「起業しよう!」という強い意志があって、というわけではありません。きっかけはスーパーのアルバイトをしていたときに、夜ごとに見かけた光景でした。

その光景とは、夜の23時を回った頃、仕事帰りのサラリーマン風の人がやってきて食材を買う姿。そこで、あることを思い付きました。

加藤「お弁当をつくって、販売してみるのはどうだろう?と思い立ち、店長に提案したんです。夜遅くまで働いて、帰ってごはんをつくらなきゃならないなんて、大変ですよね。彼らの気持ちを考えたら、弁当はきっと喜ばれるんじゃないかと」

当時は、すぐに食べられる弁当を販売していたのはコンビニエンスストアくらいのもので、しかも夜になると売り切れていました。そこに商機があると感じた加藤は、すかさず行動を起こしたのです。

加藤のアイデアは見事に顧客のニーズをつかみました。弁当販売は、8~9軒あったスーパーのグループ店舗すべてに拡大。新規事業のスタートによってスーパーは人手不足になったため、加藤が学生アルバイトを募ってあちこちの店舗に派遣するようになりました。

そのメンバーが150人ほどに膨らんだとき、ひとに勧められて会社を立ち上げ。法人として人材を派遣、管理をすることになったのです。

事業は成功し、スーパーにも将来を嘱望され入社を期待されていたであろう加藤。しかし大学卒業後は、ほかの企業に就職することになります。

「物づくりに携わりたい」「社会貢献ができる仕事がしたい」、そして「海外をめざしたい」。その3つの希望がすべて叶う、当時開発がはじまっていたナビゲーションシステムや電気自動車を開発・製造していた、アメリカとの合弁会社に入社を決めたのです。

従業員のサボタージュやストライキ……ひとを動かすことの難しさを知った前職時代

当初は企画開発職を希望していた加藤。しかしいざ入社すると、配属されたのは人事部人事課でした。

加藤「採用担当の課長が私を気に入ってくれていたのか、それとも何をしでかすかわからないからそばに置いておこうと思ったのか、わかりませんけどね(笑)それ以来ずっと人事部です」

部署間を横断する仕事や業務改善マニュアルなど、部署におさまらない仕事を担い、やがて人材採用チームに配属。そこで経験を積んだのち、中国での事業立ち上げを任命されます。

任命を受けたものの、中国に人脈もなく、中国語も話せない。右も左もわからない加藤が足場固めに起こした行動――それは、夜のドーナツショップに行くことでした。

加藤「すごく日本語のうまい中国人留学生がアルバイトをしていて。その子に声をかけて『今いくつですか?大学4年生?就職活動しているの?じゃあウチに来ない?』って。その留学生の友達も集めて、最終的には日本語の話せる中国人5人を採用して、一緒に中国に行きました」

ところが、この“型破り”な行動が功を奏します。

加藤「その子たち、当時日本に留学していたくらいですから、家庭が裕福なんです。親が大学教授などの要職に就いていることもしばしばでした。中国は日本以上に人脈がものを言う国ですから、色々な方を紹介してもらったりして、ずいぶん助けられましたね」

着々と中国拠点を築き上げていった加藤でしたが、そこでは大きな挫折と、考え方の転換を経験することとなります。

そのきっかけとなったのが、従業員のサボタージュやストライキ、果てには恨まれて襲撃されかけるといった経験。

それまでは仕事ぶりを評価され、昇進も早かった加藤。いつしか「自分が言えば、なんでも言ったとおりに動く」「成果さえ出せば文句はないだろう」と思うようになっていました。

しかしまったく文化の異なる中国では通用せず、思い込みは否応なしにくつがえされたのです。

加藤「周りに助けられてこそ、今の自分があるんだということに気づけました。それ以来、しっかり相手の言い分を聞いて理解する、頼るべきところはしっかり権限委譲して任せることを重視するようになりました。これは今の働き方にも通じています」

「ひとを採る」のではなく「一緒に働けたらいいな」という感覚

中国赴任を終え、キャリアにもひと区切りついた加藤は会社を退職。2015年、新天地として偕行会グループを選びました。

勤め先の選び方は新卒時と変わりなく、まず医療という「社会貢献」ができること。転職活動と時を同じくして加藤の母が病気になったのも、医療の世界に目を向けるきっかけのひとつでした。そして「海外展開」があること。また、これからどんどん若い人材を入れ、事業を発展させていくと聞き、偕行会で自分の経験を活かして若手の成長にかかわることを望みました。

加藤が人事の仕事に携わってきて、昔も今も変わらないのは「ひとを採る」という感覚は一切ないということ。

加藤「私が一方的に選ぶのではありません。私たちと一緒に仕事したいと思ってくれるなら嬉しいな、という感覚です。私たちも、応募者の“できるところ”を見て、一緒に働きたいと思う人を見つける。あとはこちらが選ばれるかどうかです」

偕行会では採用活動にあたり、3回の面接をします。その間にも自由なディスカッションや質疑応答、応募者が望めば見学やインターン、食事会なども実施。ひとりにつき30時間ほど、一緒に過ごす時間をつくっています。

仕事の内容だけでなく、上司の人柄や職場の雰囲気はどうか、よく見たうえで一緒に働けるか考えてほしいという思いがあるためです。

採用面接でも、いいところを見つける「加点方式」で考えたいと言う加藤。一緒に働くようになってからも、そのスタンスは変わらないと言います。

加藤「若い職員たちを統括して仕事をしていて、思うとおりになることなんて3割くらいのものですよ。でもそれでいいんです。それはつまり、私の中にある、“今まではうまくいっていたやりかた”はもう古い、ということなんですから。

若い職員にはどんどん、自分のやりかたや新しい仕事を見つけていってほしいと思っています。やってみて失敗したからといって責める気風は、偕行会にはありませんから。ただし、やみくもにやるのではなく、しっかり考え抜いてから挑戦する、その力は身につけてほしいと思っています」

ひとの力は定量化できない。数値で計れない中、いかに力をつけていくのか

25年以上にわたって人事に携わってきた加藤。これからはますます“ひと”の時代になっていくと考えています。

加藤「AIが台頭してきたからこそ、テクノロジーではカバーしきれない、“ひと”の力をどう活かしていくかが、経営にはいっそう大切になってきます。経営者の理念や戦略を、スタッフ一人ひとりが理解して力を発揮してもらえるようにしていくにはどうすればいいのか。それが人事に求められている経営戦略です」

人材育成の難しい点は、成果の数値化がしばしば形式化してしまうこと。偕行会法人本部では、各人に目標を与え、その成果で評価をする「目標管理制度」はあえて導入していません。

たとえば、前期の目標がコスト5%減だったとして、それを達成したら今期はまたさらに5%減……、というように、目標設定を間違えれば、成果を出せば出すほど、スタッフが苦しくなっていく制度にもなりかねないと、私たちは考えています。

加藤「ひとの力を定量化して見せるなんて、できないししたくないんです。もちろん経営側に説明するときは、数字として表現しますが。そもそもチームで取り組んでいるのに、一人ひとりの業績を出すことって、実際は不可能なんです。

その業務に取り組んだことで新しい能力開発があったり、スキルが上がったりという瞬間に、職員は働きがいや自らの成長を感じるわけです。だから定期的な上司部下の面談では、できたかどうかでなく、どんな仕事が楽しかったか、2~3年後にどんな仕事をしていたいかという『人材育成』の視点で各部署の上長に面談をお願いしています。次にやりたいことと、それにどう取り組んでいくのかを職員と一緒に考えて、共有していくんです。そうすることで信頼関係が生まれて、組織はもっと強くなると信じています」

一人ひとりの力を信じること、そして競争でも採点でもない方法でその力を伸ばしていくことで、加藤は偕行会グループが未来に進んでいくための道を築いていこうとしています。

取材日 2018.3 Text by PR Table